飲み続けない方がいい胃薬

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長期服用で副作用のリスク

「誰がそんなこと言ったんだ!」と、内科・胃腸科をかかげる医院の先生に強い口調で言われました。

先日、70代の女性患者さんに、「もし症状がないようでしたら、この薬は長いこと飲み続けない方が良いかもしれません。」とお伝えしました。

それを正直に先生に伝えたところ、冒頭のように言われたとのことでした。

詳しくお話を伺うと、その胃腸科の先生ご自身も同じ薬を服用されており、効果を実感されているご様子。

ご自身の処方した薬について、他の医療機関の薬剤師から意見されたことに、ご立腹されたようです。

そのお薬は、いわゆるPピーPピーIアイ(プロトンポンプ阻害薬)と呼ばれる薬です。

胃酸の分泌を強力に抑える効果があります。

逆流性食道炎ぎゃくりゅうせいしょくどうえんなどで、胃酸が上がってきてつらい方の治療によく用いられます。

また、最近では、ほとんど胃への負担がないと考えられている薬であっても、なぜかPPIが一緒に処方されるケースがしばしば見られます。

しかしながら、長期服用には副作用のリスクがあることも、また事実です。

PPIには、どんな薬があるか

PPIには5種類(2025.3月現在)があります。

  • エソメプラゾール(先発品はネキシウム)
  • オメプラゾール(先発品はオメプラゾン)
  • タケキャブ(先発品で、後発品はまだ発売されていない)厳密には、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(Potassium-Competitive Acid Blocker:P-CAB)と呼ばれる。作用の仕方がPPIと異なるが、お薬が作用するプロトンポンプは同じ。
  • ラベプラゾール(先発品はパリエット)
  • ランソプラゾール(先発品はタケプロン)
エソメプラゾール10mg、20mg

オメプラゾール10mg、20mg

タケキャブ10mg、20mg

ラベプラゾール5mg、10mg、20mg

ランソプラゾール15mg、30mg

これらの薬は、複数の製薬会社から販売されているため、非常に多くの製品が存在します。

因みに、製品ごとに含量の違いがあり、mgの違いで他の製品との効果の比較は出来ません。

さらに、キャブピリン(タケキャブ+アスピリン)やタケルダ(ランソプラゾール+アスピリン)といった配合剤もあります。

また、ピロリ菌の除菌薬にもPPIが含まれています。

こちらは短期間の使用に限られるため、ここでは割愛します。

PPIの効果

PPIは、確かに優れた薬です。

別の80代の女性は、「これは本当に良い薬で、手放せない。」とおっしゃっていました。

実際、PPIは最も効果を実感しやすい薬の一つと言えるでしょう。

胃酸の逆流による胸やけに悩む患者さんが服用すると、数日以内に、あるいは場合によってはその日のうちに症状が改善する事が多いです。

それほどまでに、PPIは胃酸の分泌を強力に抑制します。

食事によって胃に食物が入っても、胃酸の分泌はほとんどありません。

胃酸の役割

しかし、胃酸の分泌が過剰に抑制されると、体にとって様々な不都合が生じます。

まず、胃内の酸性度が低下することで、食物と共に摂取された有害な細菌を十分に殺菌できなくなります。

また、タンパク質の消化にも胃酸が関与しているため、消化不良を引き起こしやすくなります。

さらに、鉄、ビタミンB12、マグネシウムといったミネラルの吸収にも影響するため、これらの吸収率が低下する可能性があります。

PPIの副作用

PPIの長期服用によって懸念される副作用は多岐にわたります。

具体的には、胃酸の分泌抑制に伴うものと、PPIを服用する事によるものがあります。

  • 骨粗鬆症:カルシウム吸収を阻害し、骨折リスクを高める
  • 感染症:胃酸の殺菌作用低下により、細菌バランスが崩れ、感染症リスクが高まる
  • 貧血:酸分泌低下による鉄およびビタミン B12 吸収低下
  • 認知症リスク:長期服用で認知機能低下の可能性
  • 胃がんリスク:ピロリ菌除菌後の長期投与で胃がん発症の可能性

その他、清水泰行医師のブログ「ドクターシミズのひとりごと」には、心筋梗塞のリスク上昇、腎機能の悪化、難聴やめまいのリスクなど、数多くの副作用が指摘されています。

胃酸が逆流しないようにするには

では、PPIを中止し、胃酸の逆流を防ぐにはどうすれば良いのでしょうか。

最も重要なのは、糖質の摂取を控えることです。

一般的に逆流性食道炎の治療では、油っこいもの、辛いもの、カフェイン、アルコールなど、胃酸の分泌を促進する食品を避けるようにと言われます。

しかし、これは必ずしも的確な治療とは言えません。

人間の体は、食物を摂取すると胃酸が分泌される仕組みになっています。

問題は、摂取した食物が胃の中に長時間留まることにあると私は考えます。

このことは、医学的な知識よりも、むしろ経験的に理解されている方も多いかもしれません。

例えば、大量のカレーライスや餅を食べた後に、胸やけを起こした経験がある方は多いでしょう。

胃からは糖質を消化するアミラーゼ(唾液や膵液に含まれる消化酵素)が分泌されないため、胃の内容物が十二指腸へ移動しない限り、糖質は消化されません。

実際に、嘔吐した際にラーメンの麺がそのまま出てきた経験をお持ちの方もいるかもしれません。

つまり、糖質の過食によって胃から十二指腸への食物の移動が滞ると、胃酸がずっと分泌され、逆流を引き起こしやすくなるのです。

それほど食べていないのにと感じる方は、3食とも糖質を摂取する偏った食生活を見直すべきでしょう。

「では、何を食べたらいいの? 食べるものがない。」と考える時点で、既に糖質への依存が疑われます。

PPIをやめるには

PPIの服用をやめると、これまでの反動で胃酸がたくさん出るようになります。

そのため、中止後に胃酸の逆流が再発し、つらい症状に悩まされる可能性があります。

この反動はしばらく続くため、「やはりPPIを飲み続けなければならない。」と感じてしまうかもしれません。

そうならないように、糖質を控える食事療法に加えて、PPIの服用頻度を徐々に減らしていくことを検討してみてはいかがでしょうか。

例えば、毎日飲んでいたのを、1日おき、2日おきというように間隔を1日ずつ増やしていく方法があります。

一般的に、薬は急に中止しない方が良いとされています。

PPIにこそ、これを当てはめてみましょう。

また、食事による胃酸分泌を抑制しないH2ブロッカー(ヒスタミンH2拮抗薬)への切り替えも選択肢の一つです。

ただし、H2ブロッカーもあくまでPPI中止のための代替薬であり、漫然と服用すべきではないことは言うまでもありません。

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